syouwanowasuremono’s blog

懐かしい旧車・モノ・コトにまつわる雑感

昭和の忘れもの

「暗がりのときめき」

【スライドプロジェクター カラーキャビンⅡ】モノ・コト編⑧

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 世界最軽量の1眼レフカメラ(ペンタックスMX)が手に馴染むにつれ、行動範囲の狭さもあって、写真の出来映えが画一的なのが気になり始めた。そこで、目新しさを求めてリバーサルフィルムを併用するようになった。

 ネガフィルムと違って露出がシビアで、価格も高いのが難点だが技術を磨くのにはいいと思った。さらに、プロジェクターを使って大写しで見ることができるのが最大の利点だ。今でこそ大画面で映像を観られることなど当たり前だが、当時のテレビはせいぜい19インチ。大画面となると、映画館のスクリーンしか思い浮かばない時代だった。

 闇を貫いた光がスクリーンに反射し、観客の顔を照らし出す。あの何とも言えない淫靡な空気感。そこから生じる不安とときめき―――ある世代以上にはそんな映像体験がすり込まれているのだろう。

 映画といえば8ミリにも触れなくてはならないが、当時ようやく廉価版カメラが普及し始めていたとはいえ、現像代も高額だったのでなかなか手が出なかった。それ以前に、ムービーとスチールは似て非なるもの。そんな正論は言わずもがなだったが、つい「暗がり」の誘惑に負けてしまい、スライドプロジェクターと専用のスクリーンを買い込むはめになった。リバーサルに手を出した以上、必然の帰結だ。

 勢いのまま友人に声を掛け、時折映写会を開いた。旅先の風景写真がメインで「映写会」と銘打つほどのたいそうなものではないが、屯(たむろ)する口実にはなった。自分の撮った写真を肴に馬鹿話をする。それだけで十分だったのだ。

 自己満足でしかないが、映写する1コマ毎の順番構成をしたり、自分なりにイメージした曲を選曲・編集してBGMにするのは楽しい作業だった。日中であれば雨戸を閉めたり厚手のカーテンを引いたりと、映写するまでの手間は掛かったがそれも苦にはならなかった。

 今や写真のデータ(ネガや紙焼きも含めて)もパソコンに取り込み、細密なディスプレィでいつでも鑑賞できてしまう。簡単便利で隔世の感がある。そもそも、カメラを別体で手にする人間がどれだけ存在するのか。まして、一枚の写真を見るのに何重もの手間をかけるなんて、スマホ依存の現代では想像の埒外と言えるかもしれない。

 しかし、天邪鬼はいつの世にも存在する。事実ここにも。

 さてと、今日はPCとテレビの電源を落とし、懐かしいスライドを観ようと思う。さしずめ、BGMはロバータ・フラックあたりか。もちろん、LPレコードで。