syouwanowasuremono’s blog

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【ホンダ CB250EXPO(エクスポート)】バイク編⑭

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 バイク仲間はそれぞれ高校が違うことはすでに書いた。彼らは、バラエティーに富んだ愛車そのままの個性的な面々だった。

 中でもYは当時では珍しい中高一貫校に通う、所謂「お受験」組だった。そんなことから折に触れて優越感をちらつかせる傾向があったが、気のいい仲間たちはさほど気にしていなかった。

 Yの部屋を訪れると、いつも吉田拓郎井上陽水のレコードがかかっていた。そこには仲間の誰かしらが出入りしていたが、人数が増えると二軒隣の平屋に移動するのが常だった。そこは六畳間と三畳、流しとトイレが付いていた。

「今は空き家だけど、親戚のものなんだ」

 歯切れの悪い説明だったが、大人たちに干渉されない“隠れ家”を提供してくれる人物を深く追求する者はなかった。

 実は、気になっていたのは本人よりも父親の方だった。息子を学費の高い私立校に通わせ、複数の不動産を所有している―――それだけで、周囲では父親の職業について様々な憶測が飛び交っていた。曰く、(今風に言い換えると)“土木業の社長”だとか、所謂“その筋”の幹部らしいとか。中でも真(まこと)しやかに噂されていたのは、県内の香具師(やし・寅さんでおなじみのテキ屋のことだ)の元締め説だった。

 根拠は不明だが、父親の背中に刺青があるのを見たとか見ないとか。今では御法度のようだが、当時は銭湯で普通に見かけたものだ。

 それはさておきY本人である。彼は確かに学業優秀で、顔も悪くはない。そんな彼は仲間のNに妙なライバル心を抱いていた。そう、女子に関して。だが二人の勝負は端からついていた。女の子に縁の薄かった身で言うのも気が引けるが、Nは確かに女子には“まめ”だったが、アプローチも付き合い方もスマートだった。

 それに対してYのやり方は強引で、下心が見え見えだった。十七、八の男子高校生の頭の中身など単純で似たり寄ったりだったが、それにしても露骨すぎた。

 ある時、ついに問題が起きた。仲間の一人がある女の子に好意を持ち、いい雰囲気になったところへYが割り込んだのだ。当人が本気なら他人が口を出すことではないが、そうではなかった。自分の方が優秀なのに、可愛い女の子が仲間の別の男に好意を持ったことが気に入らなかったらしい。結果は明白だったが、その歪んだプライドに、さすがに皆が呆れた。

 そんな自意識過剰なYについて、ずっと疑問に思っていたことがある。バイクに関しては地味なマシンに甘んじていたことだ。彼の愛車CB250EXPOは、熟成されたバーチカルツインエンジンの信頼性とバランスの取れたトータル性能が高く評価されていたが、Yの普段の言動からすると意外な気がした。なにしろライバル視していたNがダブワン(650㏄)に買い替えた時には、「俺はナナハンに替える」と散々息巻いていたのだから。

 考えを巡らせて、はたと気付いた。Yがナナハンを買わなかった理由、正確には買えなかった理由が。それは彼が自覚していた唯一の欠点、161㎝という身長である。その身長では地面に両足を着けることができないのだ。爪先だけなら辛うじて片足が着くが、路面に傾斜があればバランスを崩して転倒する怖れがある。万が一そんな無様な姿を晒してしまったら、彼にとっては生き恥だ。信号で停車する度にそうした緊張を強いられることは耐えられないだろう。

 Yは賢明にも思い留まった。というよりも、すでに気持ちは四輪に移っていたのかも知れない。仲間の先陣を切ってクルマで登場する―――そんな展開を目論んでいたとする方が合点がいく。やれやれ、これですっきりした。

 しかし、別の疑問が再燃してしまった。Yの父親の職業である。噂の真偽は? 本当は何者だったのだろう? 

 このモヤモヤは気持ちが悪い。今さら何を聞いても驚かない。だから、誰か教えてくれ!