syouwanowasuremono’s blog

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「油断大敵」

ニッサン ブルーバードU1800】クルマ編⑥

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 まだロータリークーペを手に入れる前の話である。

 4輪の免許を取得したものの、我が家にはマイカーが無かったので、実質的にペーパードライバーの時期がしばらく続いていた。

 その年の夏。父方の法事があり、親戚筋のD氏から借りたクルマの運転手を務めたことがあった。先方には運転手が免許取り立てだということは伝えてあったようだが、初心者の若造に愛車を貸すというのは結構な勇気といえるだろう。あるいは、よほどの義理があったのか。だが、そんな大人の事情は関係なかった。理由はどうあれ、本人はクルマの運転ができるというだけで盛り上がっていた。

 当日の午前9時頃。D氏の職場の金属加工工場にバイクで乗り付け、敷地の奥に停めてある目的のクルマを見つけた。青いブルーバードUだった。当時の上級車で、初心者の自分が乗り回していいのか躊躇ったが、今日の役目は“運転手”なのだと割り切った。

 期待と不安を抱きつつキーを捻った。エンジンはすぐに目覚めた。教科書通りしばらく暖機運転の後、ゆっくりとスタートした。

 自宅に寄って父親を乗せ、改めて法事が行われる寺を目指した。バイクで走ったことのある道だったが教習所以来の4輪、しかも借り物ということで神経は張り詰めていた。

 慎重な運転の甲斐あって無事に目的地に到着し、一安心。法事も滞りなく済んだ。

 帰路も順調だった。午前とは逆の順序で、自宅を経由して工場へ向かう。

『仕事が終わる6時までに戻しておいてくれればいい』

 D氏との約束の時間にはまだ余裕があった。おかげで明るいうちに工場に着いた。速度を落として奥へ進む。だが、何となく午前と感じが違った。ブルーバードが停めてあった場所に別のクルマが停まっていたからだ。一瞬戸惑ったものの、もともと厳密に区分けされた駐車場ではなかった。開けた敷地にラインやロープは見当たらない。

 そんなわけですぐに気持ちを切り替え、そのクルマの隣に駐車することにした。スペースは十分で、車間を気にする必要もなかった。右のミラーとルームミラーで後方を確認し、ゆっくりと後退させた。あと50㎝・・・。やれやれ無事だった。と思った次の瞬間、後部に鈍い衝撃があった。

(えっ!? 何かにぶつかった?)

 慌ててクルマを降りて後部を確認した。すると直径1メートル、高さ70㎝ほどの鋼鉄製の部材がトランク部分にめり込んでいた。

 どうやら解体した巨大な配管部材の一部で、それが敷地の片隅に無造作に放置されていたのだ。もっと慎重に左右のミラーを確認すれば気付けたかもしれないが、車内からは微妙な高さで死角になっていた。いや、言い訳しても仕方がない。速度は遅くても、相手が悪かった。クルマがぶつかってもびくともしない巨大な鉄の塊で、しかも鋭角の切断面があったのだ。

 結局、D氏に平謝りして、結構な額の修理代を弁償することになった。当日の走行距離はトータル50㎞程だったが、最後の50㎝で大失敗を犯した。まさに油断大敵という言葉が身に染みた日だった。

 しかし同時に、一日も早く自分のクルマを買うぞと、決意を新たにした日でもあったのだ。