syouwanowasuremono’s blog

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昭和の忘れもの

「白の運命」

【ホワイトダックス70 part2】バイク編⑯

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 SL350を手放してから二ヶ月ほど過ぎると、何やら物足りなさを覚えるようになった。何より日常の“足”が無い不便さを痛感させられた。

 今さらながらバイクの機動性に思い至ったのだが、これは自他に対する詭弁に過ぎない。すなわち潜在的なバイクに対する未練、渇望があったのだろう。

 結局いとも簡単に欲望に負け、クルマを買うためにコツコツ貯めていた“御足”を文字通り“足”を買うために吐き出す決心をした。

 日常の足なので大きなものは要らない。ストレスなく、買物や友人の家に行ける機動力があればいい。悩んだ末に出した結論が「ホワイトダックス70」だった。

 お気付きの通り、すでに『ムズムズ』の項で新鮮かつ妙な気持ちの揺らぎを語った。実はあの時のダックスは、足を骨折して入院することになった先輩からの借り物だった。

「1ヶ月ほどかかるらしい。その間、エンジンを回しておいてくれ」

 そう言われて託されたのだ。昔のエンジンは動かさないと不調になることが多かった。酷使しても問題ないのに、長く休ませるとダメになる―――機械なのに、昭和の精神論に通底するところがあったようだ。

 それはともかくあの時の印象が鮮明で、是非とも手に入れたいと思ったのだ。

 期待は裏切られなかった。普段使いに過不足なく活躍してくれた。その間に念願のクルマも手に入れ、双方を使い分けていた。しかし、人間という奴はとことん楽をしたがる生き物らしい。風雨や季節に左右され、ホワイトダックスの走行距離は伸び悩むようになった。さらに、ノーヘルが罰則の対象とされ始めたことも影響した。

 バイクを飛ばせば2、3分の店へ買物に行くのに、わざわざヘルメットを被ることが煩わしかった。そのひと手間と命を天秤に掛ければ答えは明らかだったのに、その煩わしさを回避しているうちに、いつしか粗末な屋根の下で埃を被るようになってしまった。

 そんな状況を見かねて、近所に住むH氏が声を掛けてきた。

「乗ってないなら譲ってくれないか?」

 即答はしなかったが、現状ではバイクが不憫に思え、数日後に相場の金額で売却することを決めた。初めから“足”と割り切っていたこともあり、特別な感情もなく譲渡は完了した。

 だが、3ヶ月後。思いもよらない事件が起こった。売却したホワイトダックスが盗難に遭ったというのだ。平穏な町だと信じていたので驚愕した。当のH氏の落ち込みようは言わずもがなである。被害届を出したものの、結局バイクは見つからなかったようだ。

 以来、こちらに非があるわけではないのに、なぜか気まずくて顔を合わせることができなくなってしまった。もちろん、悪いのは窃盗犯である。だが、あのまま手放さなければ・・・そんな後悔も含めて自分が罪深い人間に思えて仕方がなかった。

 ああ、またしても過剰な感情移入だ。そう自省しながらも、花柄シートと白い車体が脳裏から消えないのだ。それもなぜか、借り物で味わったあのほろ苦い思いと共に。

 だからこそ、所有車として付き合ったホワイトダックスには、どのような天命を内包していたのかと問わずにいられない。