syouwanowasuremono’s blog

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「1年後の答え合わせ」

トヨタ セリカリフトバック1600GT】クルマ編⑦

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 何気なく街を歩いていると、交差点で白いクルマにクラクションを鳴らされた。何事かとドライバーに目をやると、何とNだった。顔を見るのはほぼ1年ぶりだ。助手席には例によって派手な化粧をした女性が収まっていた。

(相変わらずお盛んで何より)そう胸の内で呟きながら、実際には言葉を交わすこともなく走り去るクルマを見送った。流麗なリアスタイルが際立つ、セリカリフトバックだった。

 一時バイクから遠ざかったこともあり、高校卒業後はかつてのバイク仲間と顔を合わせることはほとんどなかった。だが、懐かしい顔を見かけたことで思い出が蘇った。僅か1年前のことなのに遠い記憶になりつつあった、あの「自意識過剰横恋慕事件(?)」だ。ナナハンを諦めた反動で、仲間で真っ先にクルマで乗り付けるのはYだろうと予想したが、どうなったことやら。

 後に聞いた話では、Nを含む仲間の3人は4輪に乗り換えて今でも頻繁に会っているらしい。Nは親の援助で新車を手に入れ、他の二人は家族のクルマを乗り回しているとのことだ。一方で、Yの噂は一向に聞かないという。

 NのセリカLB(リフトバック)は1600GTだった。おそらく、自力では買えないという負い目のせいで妥協したのだろう。LBには上級車に2000GTがあり、両車にはそれなりの価格差があったからだ。もちろん走行性能の差は歴然だったが、見た目ではテールランプのデザインが少し異なる程度でほとんど区別がつかない。そんなわけで、エンブレムを付け替えただけの”2000GTモドキ“が街中に溢れていた。

 その点、Nは潔く「1600」を受け入れていた。彼の価値基準は「自分自身」であり、持ち物は演出の道具に過ぎない―――その信念は変わってはいなかった。確かに、一見して美しいLBのボディーラインに目を奪われ、言葉巧みに車内に誘われた女性が排気量の違いなど気にするはずもなかった。

 Nはたいした奴だ。大学生の身分で新車を乗り回している境遇を羨みながらも、年月が経っても信念がブレないことには敬意を表したいほどである。Yとの先陣争い予想など論外だった。成るべくして成る。現状がどうであれ結論はひとつだったのだ、Nの先行ぶっちぎりで勝負あり!と。

 人は自分自身を生きることしかできない。時間が掛かったが、答案用紙の空欄を埋めることができたように思えた。半端な形で仲間と別れたことも定めだったのだ。だから改めて旧交を温めたいとは思わなかった。過ぎ去ったあの3年間は時代と世代、そしてバイクという融和剤が介在したからこそ成立したのだろう。

 交差点で言葉も交わさずに見送ったLBの後ろ姿は、1年前の自身の背中だったのかもしれない。