syouwanowasuremono’s blog

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「新たな出発」

【ホンダ CB750four(K2)】バイク編⑱

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 何が不満だったのだろう。

 割り切って4輪の大衆車を購入し、2輪への未練を宥めるために原付も手に入れた。しかし、何かが足りなかった。身体の内部が欲している解放感、爽快感、疾走感―――それは埋み火のようなものだった。

 思えばそんな自分をごまかそうとしていたのか、バイクにまつわる伝記やら小説を読み漁った時期があった。だがむしろ触発されて、『今手に入れないと後悔する』という強迫観念に駆られ、憧れだったバイクを買おうと心に決めた。ナナハンである。

 この頃には大排気量のバイク市場が拡がり、高性能の750㏄バイク(オーバー750㏄も)が各社から発売されていた。だが、我々の世代で“ナナハン”といえばやはり「ホンダCB750four(フォア)」である。日本におけるナナハンブームの火付け役で、ホンダの創業者・本田宗一郎氏が心血を注いだエポックメーキングなビッグバイクだ。

 当初から憧れていたバイクだがこの時すでに絶版車になっていて、程度の良い車体を探すのは一苦労だった。当時はネットなど存在しなかったので、雑誌の広告を読み漁り、実車を見に上野付近の中古車街を覗いて廻る日々だった。

 そうして、ようやく“お宝”を見つけた。銀色のタンクのそれは、他のバイクたちの中でもひときわ輝いていた。(こいつだ!)。倉庫の奥に格納されていたCB750フォアを引き出してもらい、試乗もそこそこに購入を決めた。迷いは無かった。

 後日、手続きを済ませての帰路。晴れて自分のモノになったナナハンの実力を試そうと、気合いを入れてスロットルを捻った。たちまち弾かれたように加速し、身体が後方に持っていかれるような感覚だった。その強大なパワーに圧倒され、とんでもないモノを手に入れてしまったと思うと同時に、これこそが自分が求めていたものだと納得もしたのだった。

 ただ、日常的には紳士に徹することができた。スロットルをほんの少し開けば、一瞬で他車を置き去りにできることがわかっているからだ。それがたとえ高級なスポーツカーであっても。だから、時には信号待ちの原付に道を譲ることさえできた。なるほど、ゆとりとはこうしたモノから与えられることもあるのだ。

 天候・季節に左右されずに荷物も運べる4輪。近所への用足しに手軽な原付。絶対的な加速と高速性能を誇るナナハン。自身のカー&バイク生活はこの3台態勢となったわけだが、決して経済的に余裕があったわけではない。当時の自宅は古くて狭かったが、その分たまたま駐車スペースが確保できたからに過ぎない。4輪は1.4Lの大衆車だし、当時の原付の価格も維持費もたかが知れている。問題のナナハンも10年落ちの中古だ。3台の車両価格を合わせても国産スポーツカー1台分ほどである。

 ともかく、こうして我がバイクライフの新たなステージはスタートした。と、ここまでが今回の話である。当然、この後高校時代とは全く違う展開が待っていたのだが、その話は追々語ろうと思う。