syouwanowasuremono’s blog

懐かしい旧車・モノ・コトにまつわる雑感

火を灯す

「火を灯す」

〈昭和の忘れもの〉モノ・コト編 ㉙

ジッポー 他ライター各種】

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 以前、広告マッチについて書いた。今回は公平を期してライターにも触れておこう。

 広告マッチの収集に熱中した記憶のせいでその話題が先行したが、喫茶店で手に入れるマッチはコレクション用と割り切っていたので、嗜みとして(?)ライターは持ち歩いていた。ライターがあるのにマッチを要求する客をどう思っていたのかは不明だが、当時はそうしたことも含めて大らかな時代だった。

 そのライターだが、困ったことにこの愚かな小市民はライターについても3つ、4つと数を増やしていったのだ。身の程をわきまえていたのでデュポン(仏)やダンヒル(英)には触手が動かなかったが、手ごろな価格でデザインが気に入るとつい買ってしまうという悪い癖だった。

 とはいえ、突き詰めればタバコに火を点けるための道具に過ぎず、携行するライターは2、3個のお気に入りのローテーションということに落ち着いた。中でも「ジッポー」は強風の中でも火が消えないという売り文句は伊達ではなく、野外で使用する頻度の高いバイク乗りにとっては定番のアイテムと言えた。青空の下で風に吹かれながらの咥えタバコが画になるのさ―――と真顔で吹聴するお馬鹿さんも少なからずいたが、ツーリング途中の休憩での一服、殊に春先のドライブインでコーヒーと共に味わうタバコは格別だということは否定しない。

 ところがある時期に自身は禁煙したので、ライターは無用の長物となってしまった。アウトドアならいざ知らず、街中ではタバコに火を点ける以外に登場シーンはない。タバコも持たず、ライターだけを手にしていたら不審者として見られるのが落ちだ。前日まで喫煙具の重要なアイテムとして認知され、モノによってはお洒落・ステイタスとまで言われたのに、その凋落ぶりはあまりに悲しい。

「もう君の仕事はないよ」

 それまで仕事をバリバリ熟していたのに、ある日突然リストラを宣告されたサラリーマンのようなものだ。かくてライターもまた、広告マッチと同じく小市民の歴史の証人となったのだ。 

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 アウトドアといえば、昨今は焚き火や薪ストーブがブームだという。“暖”はもちろんだが、炎の揺らぎが癒やしを与えてくれるのだろう。さすがにそれは無理でも、自室でオイルランプやキャンドルの炎にほっとする向きもあろう。

 ライターには実用性しか感じられないのに、その火がひとたびランプやキャンドルにバトンタッチされると生命を宿した炎に見えるから不思議だ。不安や怖れが蔓延している時代だからこそ、原始の明かりを本能的に求めるのかもしれない。

 様々な祈りを込めて“希望の火”を灯す―――いささか芝居掛かったそんな儀式も、年初なら許されるだろう。その際、せめて着火の役目を手元のライターに与えてやろう。久々のオイルライターの匂いで、ひょっとすると懐かしい風景も蘇るかもしれない。