syouwanowasuremono’s blog

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承認欲求

「承認欲求」

〈昭和の忘れもの〉クルマ編⑬

【スプリンター・トレノGT-APEX (AE86)】

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 クルマ好きには説明の必要もないだろうが、AE86(ハチロクといえばかつての走り屋の定番で、人気コミック『頭文字D(イニシャル・ディー)』で主人公が駆るクルマとして一世を風靡した。4A-GE1.6L直4エンジンを搭載したトヨタの小型スポーツカー最後のFR(後輪駆動)車として、40年経った現在でも人気の車種である。

 小型軽量で操縦性に優れたハチロクだが、突出した高出力でもなく、足回りも特別な設計が成されていたわけではない。エンジンを含めて基本設計がしっかりしていて改造の自由度が高かったせいで、腕に覚えのあるドライバーや熟練のメカニックにとっては格好の素材だったのだ。加えて、スタイルも。

 そうした背景のせいで走り屋のイメージが先行し、マイカーとしては敬遠する向きもあった。ともすれば街道レーサーとして見られ、時として余計なトラブルの種ともなったからだ。したがって自身の愛車候補に挙がることはなかったが、そこには全くの個人的、感情的な別の理由もあった。 

 ある時、知り合いの女性からスプリンター・トレノGT-APEXを買ったと近況報告(年賀状だった?)があった。そんな情報交換を頻繁にする間柄ではなかったので、真意を図りかねた。彼女は真面目で人当たりも悪くないのだが、個人的には苦手な人物だった。

「平凡な人生は送りたくない」―――いつだったか、そんなことを友人の前で語っているのを耳にしてしまったからだ。平凡な人生って何だ? 自分はどれほど特別なんだ?

  以来、何となく彼女に対して身構えてしまうようになった。今にして思えば自己顕示欲、承認欲求に正直な人間というだけのことなのに。彼女にとってはクルマもまた、自己主張の一環だったに過ぎない。

  正直、コミックの中で描かれる峠道をドリフトしながら疾走するクルマたちの姿には憧れもあった。だが、主役であるハチロクの走行場面を追っていると、つい頭の片隅に“トレノの彼女”がちらついてしまうのだ。ハチロクに罪はないのだが、そんな理由で個人的には好きになれなかった。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの類いだが、そこまで過敏に反応していた自分のなんとちっぽけなことか。

 何事に拠らず好き嫌いや相性というものが存在することはやむを得ないとしても、どこまでも狭量な己の感情を制御しないと、話の行き先もドリフト(横滑り)してコースアウトしてしまいそうなので、この辺でブレーキを踏むことにする。

 因みに彼女のことだ、現在はSNSの発信に勤しみ、念願の「いいね!」の獲得に嬉々としているに違いない。