syouwanowasuremono’s blog

懐かしい旧車・モノ・コトにまつわる雑感

未練

〈昭和の忘れもの〉クルマ編⑮

マツダ サバンナRX-7(初代)】

 マツダが世界に誇るロータリーエンジン。その高性能ぶりは、かつてプレスト・ロータリークーペに乗っていた自分には良くわかっていた。だが、その高性能エンジンを搭載した新型車の発表が絶えて久しい。

 ナナハンに手を伸ばさなければ、あるいは経済的な余裕があれば・・・そんな後悔と割り切りの狭間で葛藤していた頃だ。後輩のTがグリーンのサバンナRX-7で我が家に乗り付けた。

「これ買ったので、遊びに来ました」

 内包していた“ロータリー愛(未練?)”を知ってか知らずか、いかにも無邪気な口振りだった。中古だという話だが、目立った傷もなく綺麗な車体だ。早速郊外を一回りすることになり、助手席に収まった。

 懐かしいロータリーサウンドが心地良い。車高の低さもあって体感速度は3割ほど増していて、走りの楽しさが蘇る。内部はさすがにタイトだが、彼女と二人ならこの密着感も悪くないかもしれない。諸事情からファミリーカーに宗旨替えしてしまった身としては、後輩の選択に嫉妬しつつも拍手を送ったのだった。

 ところが、話はそこで終わらなかった。およそ1年後、そのTから結婚式の招待状が届いた。“彼女”の存在は聞かされていたが、まさかこれほど早く結婚に至るとは思いもしなかった。何しろ、その時彼は22歳。さすがに早過ぎると勝手に危惧していた。

 式の当日。新婦を見て目を見張った。華やかなドレスと念入りなメイクを差し引いても、思わず見とれてしまうようなすらりとした美人だったのだ。なるほど、早々に独身生活にけじめをつけた理由に合点がいった。こんな美人をいつまでも独身にしておいたら,彼としては気が気ではないだろう。

 下世話ながらTの給料でやっていけるのかと心配したのだが、これまた杞憂だった。年上の彼女は某世界的電機メーカーの社員で、年収はTの倍以上。いわば逆玉、いやこれは髪結いの亭主というのか。いずれにせよ、さし当たって経済的な不安はなかったのだ。

 これまで何かにつけて面倒を見ていた後輩に、あれもこれも逆転された気分だった。殊に恋愛事情では連敗記録を更新したばかりだったので、内心穏やかではいられなかった。それでも僅かな対抗意識、先輩としての意地は残っていた。Tに対する羨望の導火線はスポーティーロータリー車だった。他人が羨む伴侶はともかく、クルマなら自分にも再びロータリーを駆る機会が巡ってきてリベンジができる―――そう信じていた。

 

 しかし、カーボンニュートラルとやらで世界の趨勢はEV(電気自動車)に舵を切り、ロータリーエンジン復活の夢はほぼ潰えてしまった。その無念さに唇を噛んだが、一方で安堵してもいたのだ。というのも、RX-7は2002年までモデルチェンジを重ね、RX-8に引き継がれて2012年まで生産された。またその間、ロータリーエンジン搭載の高級車も何車種か世に送り出されていたのだ。つまり、どうしてもロータリー車に乗りたければ、購入の機会はいくらでもあったのだ。だが踏み切らなかったのは(高額で手が出なかった現実は別として)、自身の思い入れの根源はロータリーエンジン自体ではなく、人生初愛車のプレスト・ロータリークーペにあったことに気付いたからに他ならない。

 手放した後の女々しいほどの未練は、初の愛車によって紡がれた多くの想い出に拠るところが大きかったということなのだろう。失って初めて思い知ることは多い。

 やはり初恋の相手は特別であり、忘れることができないものらしい。