syouwanowasuremono’s blog

懐かしい旧車・モノ・コトにまつわる雑感

それぞれの物語

〈昭和の忘れもの〉バイク番外編

【「ワイルド7」と「750(ナナハン)ライダー」】

 先頃、漫画家の石井いさみ氏が亡くなった。1975年から10年間に亘って「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)に連載されたバイク漫画の金字塔、『750(ナナハン)ライダー』の作者である。

 主人公の高校生「早川光・はやかわひかる」は、愛車のホンダCB750fourを維持するためにガソリンスタンドでアルバイトをしている。連載開始当初「光」はアウトロー的に描かれていたが、時代の変遷と共に作画のタッチも変わり、中後半は真面目で成績優秀な〈委員長〉こと「久美子」との淡い恋や高校の仲間たち、彼らを見守る喫茶店のマスターとの交流が中心に描かれるようになった。

 バイクが活躍する場面もあるが、あくまでも脇役に徹していた。それでいて、まるで“仲間の一人”のような確固たる存在感を随所で放っていたのが印象深い。

 一方、『ワイルド7』は望月三起也氏(2016年没)が「週刊少年キング」(少年画報社)に連載(1969~1979)していたアクション漫画である。こちらは超法規的な権限を与えられた警察特殊部隊の7人の隊員たちが、各自の能力と改造バイクを駆使し、法の網を掻い潜る悪を“退治”するというタイトル通りのワイルドな話である。

 7人のマシンはそれぞれ内外の著名なバイクの改造車で、リーダー「飛葉大陸・ひばだいろく」が駆るバイクのベース車両がCB750fourだった。

 この2作品は、同じバイクを扱いながら内容は対極と言ってもいいだろう。『750ライダー』は叙情的な学園もの、『ワイルド7』はハードなアクションものである。それでも両氏が同じバイクを登場させたことは偶然ではないように思う。CB750fourにはエポックメーキングという冠がついていた。ゆえにリスペクトは当然ながら、作品に対する自信の象徴として登場させた―――というのは深読みだろうか。

 いずれにしても国産初のナナハン(750㏄)登場時、二人の作者が共に少なからず創作意欲を刺激されたことは想像に難くない。連載当時、市場には高性能でスタイリッシュなバイクが多数登場していた。けれども、作品として画面に違和感なく収まり、それだけで物語性を醸し出せるバイクは多くなかったのではないか。主役を張れるにも拘わらず、敢えて寡黙だが的確な演技に徹する名バイプレーヤー、それがCB750fourの存在感を表現する最適な言葉かもしれない。

 以前書いたが、自分が憧れのナナハン(CB750four)を手に入れたのは高校を卒業してずいぶんと時間が過ぎてからだった。当然この2作品は読んでいたが、世界観が全く違うことに大きな違和感は覚えなかった。それこそがこの”名優”の懐の深さなのだろう。

 思えば両作品には少なからず影響を受け、潜在的なナナハンへの想いを決定付けたと言ってもいいだろう。背中を押され、憧れのバイクを手に入れたことで出会えた人や景色は数多い。風を切って走るたびに味わった空気感は、例えようもなく甘美なものだった。あの時決断しなければ、その後のかけがえのない時間は存在しなかったのだ。

 個人的には望月作品のファンだったので、数年前に氏の訃報を聞いた際には喪失感で呆然とするばかりだった。何ら言葉に表す術もなくいつしか年月に紛れてしまったが、石井氏死去の報に触れ、反射的に浮かんだ“ナナハン”つながりでかつての悲嘆、無念が蘇った。・・・今度こそ伝えよう。

 両氏の作風は異なっていても、漫画に賭けた情熱に違いはなかっただろう。締め切りからも解放された今、案外、“あちらの世界”で漫画談義に花を咲かせているかもしれない。そんな空想をしながら改めて両氏に哀悼の意を表すると共に、漫画史に輝く名作を遺してくれたことに心から感謝したい。

 それぞれのナナハンライダーよ、永遠なれ!