「猪突猛進」
【ヤマハ RX350】 バイク編⑫
洗練されたスタイルが目を引く、2サイクルの俊足マシンである。ヤマハらしい繊細なデザインでエンジン、特にミッションケースのシャープな造形は涙ものだ。
このRX350に乗っていたのがWだ。彼は仲間内でも控えめな男で、話題を自分から提供するタイプではなかった。愛車のRX350はスリムでシート高も低く、一見大人しいマシンに見える。ガタイのいいWが跨がると125㏄クラスのバイクと見紛うほどで、なおさら非力に映った。
しかし、こいつはとにかく速い。市街地でシグナルグランプリをやれば、仲間内ではこのRX350かマッハⅢの2サイクル車のどちらか。高原のワインディングロードや峠道なら、軽量な前者がぶっちぎりで先行する。排気量では倍近いXS650もあっさり置き去りにされてしまうのだ。
だが、Wは決して“飛ばし屋”ではない。他所者の大排気量車に挑発されても意に介せず、熱くはならない。その点では我らが仲間の2サイクルコンビは似た者同士だ。それぞれの愛車はいずれも“スプリンター”なのに、なぜか本人たちはおっとりとしたのんびり屋である。おかげで事故ることもなく、和気あいあいと楽しく走ることができた。
ただロングツーリングの際、Wはごく稀に一人で突っ走ることがある。もちろん先行車もなく、道路事情が許す範囲(?)ではあったが。
「こいつ(RX350)が『もっと速く走りたい』って言うから」
理由を尋ねても、とぼけているのか天然なのかわからない答えが返ってくる。
彼の中では、あくまでもバイクの気持ちを代弁しているという感覚らしい。確かに、ライダーとしてマシンに感情移入してしまうのは理解できるのだが・・・。
ところが、Wが唐突に集団から抜け出して先行したのはバイクだけではなかった。誰一人予想だにしていなかったが、仲間で最初に結婚したのは彼だった。さすがに高校卒業後三年ほど経ってからの話だが、自分たちはスタートも途中経過も聞かされていなかったので、ただ唖然とするばかりだった。
お相手は、彼の一途な突進に押し切られたのか、はたまた、天然ボケのような大らかな雰囲気を包容力と感じたのか。いずれにしても、お幸せにと言う他はなかった。
というわけで結婚話2連発。新春スペシャルである―――このために、Wの話がモリタ君(CB350)の後になった次第だ。
ただそこまで新年に拘るのなら、「丑」年に「猪」ではお粗末なタイトルではないか、との指摘はごもっとも。なので、謙虚にタイトルを変更しようと思う。
彼のおっとりした性格を“牛歩”に準(なぞら)え、こんなのはいかが?
『猪突牛(モ~)進』