syouwanowasuremono’s blog

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カワサキ 750RS(Z2)】バイク編⑳

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 開口一番、電話の向こうでKが言った。 

「Z2(ゼッツー)買ったぞ」

 正式名称「KAWASAKI 750RS」。我が愛車のCB750フォア登場の3年後に発売された、現在も語り継がれる名車である(通称のZ2〈ゼッツー〉で呼ばれることが多い)。

 Kは数少ない親しい友人で、高校からの付き合いだ。にもかかわらず、これまで彼が登場しなかったのはバイクという共通項がなかったからだ。そもそも当時、自動2輪の免許を彼は持っていなかった。一方、以前書いたように自分にはバイク仲間がいた。マシンについて熱く語り、バイクを駆る事だけで満足する“バイクフリーク”の連中で、彼らとは純粋にバイクを通じて繋がっていた。逆に言えば、それが唯一の接点だった。彼らとKは自分にとって双極の存在だったのだ。

 Kは不器用な自分とは違って多才で好奇心旺盛、バイタリティーに溢れた人物である。周囲に迎合しないという点では似た者同士と言えたが、彼はあくまで自分の創意を貫く人間で、こちらは単に右へ倣えが意に添わないというへそ曲がりでしかなかった。

 そのKからZ2を手に入れたという話を聞いた時は、意外に思いながらも内心嬉しく思った。電話の後、頭の中では早くも2台のナナハンが並走する画を描いていたほどだ。しかし、すぐに冷静になった。たまたま興味の対象が一致したとしても、手放しで浮かれているわけにはいかなかった。というのも、彼にとってはバイクも“おもちゃ”のひとつに過ぎないのでは?―――そんな懸念が消せなかったからだ。

 好奇心の追求に貪欲な彼には時間がいくらあっても足りなかった。必然的に“お楽しみ”の対象が次々と替わっていく。個人的にそんなKを「歩くおもちゃ箱」と勝手に称していた。なので、バイクの件も一過性に違いないという疑念に囚われてしまったのだ。そこで、彼の気が変わらないうちにと慌ててツーリングの計画を立てた。何としてもCB750フォアとZ2の2台で共に走りたかったのだ。脳裏に描いたあの画のままに。

 予定日に天候が悪かったりお互いの仕事の関係で調整が難航したりで、結局実現したのは秋口に入ってからだったが、それは最高の一日だった。かつての仲間たちとは違った、刺激的で新鮮な体験だった。CBの爆音とZ2の洗練されたエンジン音の掛け合いは快感とも呼べる、この上なく楽しいものだった。それほど感慨深かったのは、2台でツーリングと呼べるような走りをしたのは、結果的にそれが最初で最後だったからだ。

 年月を経て、いつしか「おもちゃ箱」は中身を予想することさえ叶わない「ブラックボックス」に変容していた。おそらくそこには、反比例的に己の好奇心の減退があるのだろう。肉体の老化によって精神の老化を正当化することは逃避でしかないが。 

 確かに未知の箱から不意に出現するあれこれは興味深く、歓迎すべき刺激であることは間違いない。それでも、時折思ってしまうのだ。「おもちゃ箱」の新たな演し物を予想して一喜一憂していた時代や、華麗なエキゾーストノートを奏でるZ2の4本マフラーを無心で追ったかつての自分が愛おしいと。