「記念写真」
【旭光学 ペンタックスMX】 モノ・コト編①
当時、世界最小・最軽量を謳っていた35ミリ一眼レフカメラである。
このMXを手に意気揚々と野山や海、街中を巡ってシャッターを切りまくった。
半年ほど経ち、山積みされた紙焼きを眺めて愕然とした。思い描いていた「感動した場面」は何処にも写っていなかったからだ。被写体の上っ面しか見ていないことが明白だった。
己の撮影センスのなさを棚に上げて言うのも気が引けるが、人は新しい道具を手にするとつい勘違いしてしまうものらしい。それが持つ高機能が、さも自身の能力であるかのように。
それまで、記念写真の類いやスナップショットはコンパクトカメラの領域だと勝手に決めつけていた。敢えて一眼レフを駆使するなら、一線を画した特別な一枚にしなければならない・・・そんな愚かな気負いが未熟な「作画」に走らせ、凡作の山を築かせたのだった。
そこでようやく気付いたのだ。肝心なのは感性であり、何気ない日常の一コマがシャッターを”切らせて”くれるのだと。そして、その一枚一枚が自分にとってはどれも大切な「記念写真」であり、不要な場面などないのだと。
以来、すっかり肩の力が抜けた。おかげで、世界最軽量のカメラはさらに軽くなった。