syouwanowasuremono’s blog

懐かしい旧車・モノ・コトにまつわる雑感

逃げるが勝ち

〈昭和の忘れもの〉バイク編㉒

【ホンダ CB550four (白バイ仕様)】

 すでに死語と思われる「銀ブラ」という言葉がまだ威光を放っていた頃、銀座4丁目の交差点で緊迫したカーチェイスに遭遇したことがあった。

 サイレンの音が近付いてきたので何事かと顔を向けると、黒っぽい大型車がみるみる迫り、赤信号を無視して目の前を猛スピードで走り去った。直後に、けたたましくサイレンを鳴らしながら4本マフラーの白バイが追走していく。ひょっとして映画の撮影かと思ったが、紛れもなく白昼銀座のど真ん中での出来事だった。

 程なく逃走車両はご用になったが、白バイ警官の頼もしさが印象的だった。同時に当然の結果だと納得もしていた。というのも、彼らの訓練の様子をかつて実際に目にしたことがあるからだ。

 地元近郊の丘陵地帯の一角に整地された広場があった。平坦部はアスファルトで舗装され、周囲には土砂が盛られて土手のようになっていた。特にフェンスなどは設置されておらず、その気になればいくらでも覗くことができる無防備な場所だったが、そこは交通機動隊の白バイ警官の訓練場であった。

 その日は8台の白バイが整然と並んでいた。車種はホンダのCB550four(4気筒シリーズ第2弾のCB500fourの改良型で、十分な高速性能に加えて取り回し性に優れたマシンである)だった。

 教官らしき人物の号令一下、訓練が始まった。高速オーバル走行に続いてパイロンスラローム、8の字走行、一本橋バランス、時速80キロからのフルブレーキング・・・等々。

 8の字はそれぞれの円の直径が5メートルほどで、そのラインをトレースしながら切り返して周回する。そのためにはステップが火花を散らすくらい車体を倒す(傾ける)必要がある。一本橋は長さ15メートル、幅30センチ、高さ5センチの平均台のようなもので、この上を脱輪させずに走行する。ただし10秒以上かけて―――これは限定解除審査試験の一項目だが、隊員たちの場合はさらに1本追加され、しかも「く」の字に置かれるのだ。屈曲部は実質10センチ幅の微妙なコース取りが求められるこの難コースを、20秒以上かけて渡り切らなければ失格となる。この間、総重量250㎏のバイクを絶妙なアクセル・クラッチワークと全身のバランスを駆使しながら操らなくてはならない。この極低速走行の難しさは、バイク乗りなら容易に理解できる。隊員たちは日々こうした高難度の訓練を重ね、さらなるステップアップを目指すのだ。

 自分たちは土手の上からその様子を“見学”していたのだが、白バイ隊員たちのテクニック、気迫に圧倒されて言葉も出なかった。そんな訓練を目の当たりにしていたので、もしも白バイに追われることがあったら無駄な抵抗はしないと決めていた。

 当事者ではなかったが、まさか現実にそんな場面に出くわすとは思いもしなかった。奇跡的に事故を起こさずに済んだからよかったものの、最悪の事態を想像して背筋が凍る思いだった。

 皆さん。白バイに違反を現認されたら、逃げても勝ち目はないので潔くお縄に付くことをお勧めする。因みに多くの御仁が誤解しているが、「逃げるが勝ち」とは“逃亡”を推奨しているのではない。無駄な戦いを回避するという戦略、決断を表す言葉である。

 銀座で逃亡を図った人物も、しっかり勉強していれば危険を冒すこともなかったのに。残念だ。これを世間では"恥の上塗り”と言うのだろうか。

 

追記:現在多く配備されているホンダCB1300Pは、3秒で時速100㎞に達する!