syouwanowasuremono’s blog

懐かしい旧車・モノ・コトにまつわる雑感

不実の報い

〈昭和の忘れもの〉クルマ編⑱

【ファミリア1500XGi part2】

「赤じゃないけど文句ある?」

 そう啖呵を切って購入を決めたファミリア1500XGiだったが、適度にスポーティーで且つ身の丈に合った、実用性の高いクルマだと本音で納得していた。ディーラー担当者のセールストークにしてやられたというのも嘘ではないが、乗り替えた動機の大半は別にあった。

 前年、先代の1400TC(ツーリングカスタム)が強引な割り込みをしてきたクルマに側面を傷つけられた。大事に至らなかったとはいえ、自分には非がないのにと釈然とせず、大いに落ち込んだ。この年それが前触れだったかのように祖母が他界し、続いて父親が体調を崩して入院することになった。

 そうした不運・災厄が続いたので何とか負の連鎖を止めたい、とにかく何かを変えなければと焦っていた。そんな時、ふとクルマを買い替えようと思いついたのだ。“大物”を処分することで「厄払い」ができるのでは、と。

 しかし、事態は好転しなかった。納車の三ヶ月後、父は帰らぬ人となった。祖母は天寿を全うしたと思えたが、父は前年還暦を迎えたばかりだった。

 厄払いも叶わず、単にクルマを買い替える口実が欲しかっただけなのではという呵責の念に苛まれ、新車という晴れやかさも急速に色褪せた。同時にXGi自体のイメージも一気に暗転してしまったが、皮肉にも黒い車体は法要の場には相応しかった。もしも赤だったら、不可抗力とはいえ周囲の視線に気まずい思いをしたに違いない。

 その後、このXGiはあちこちに遠征するようになった。後ろめたさを消し去ろうと疎遠になっていた友人を訪ねたり、敢えて人出の多い観光地を訪れたり。それもこれも自分に対する言い訳、逃避でしかなかったのだろう。

 そんな不純な動機が災いしてか、走行距離自体は思いの外伸びなかった。にもかかわらず、ある日信じられない事件が起きた。

 走行中急に排気音が高まったので何事かと思った瞬間、後方で『ガラガラガランッ』と派手な音がした。慌てて急停車して振り返ると、道路に何やら鉄パイプのような物が転がっていた。クルマを降りてよく見ると、それは破損した排気管だった。何と愛車のマフラーの一部が脱落していたのだ。

 予期できない貰い事故はともかく、きちんと定期点検に出していたクルマのマフラーが脱落するなんて想像もしなかった。メーカーの言い分だと排ガス規制のせいでマフラーの腐食が進んだらしいとか。

(そんな馬鹿な!)

 これには馴染みのメカニック氏も平身低頭で、最優先で交換作業をしてくれた。

 ともあれ、総じてこのXGiにはとことん嫌われたようだ。いや、相性あるいは巡り合わせが悪かったと言うべきか。というのもマフラー修理の半年後、今度は信号で停車中に脇見運転のクルマに追突されるという後日談が加わったからだ。省みると、父親の病状よりもクルマの買い替えに向いていた当時の心情を見透かされていたのかもしれない。無事に退院すると信じていたからこそとはいえ、結果として最悪のタイミングだったことは否めない。

 蛇足だが、人生最悪の失恋劇の現場に居合わせたのもこのクルマだった。まさに不運・不幸の連鎖ここに極まる、といったところだ。

 もちろんクルマに罪はない。このファミリア1500XGiに限って黒いボディーカラーが怨念めいた冥い色として記憶に焼き付いているのは、親不孝者の不実の結果に他ならないのだ。