syouwanowasuremono’s blog

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「律儀」

ヤマハ XS650】 バイク編⑤

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 大排気量バーチカルツイン特有の重厚な排気音と振動、一方で意外なほど素直な操縦性が持ち味だった。

 このバイクにも二ヶ月ほど乗っていた。仲間のFの所有車だったが、彼にその愛車の運転の”代行”を託されたのだ。

 どういうことかというと、Fは懸命にバイトをしてバイクを早々と手に入れたにも拘わらず、その時点ではまだ自動二輪免許を取得していなかった。本人の名誉のために詳しくは書けないが、要するに試験に合格できなかったのだ。

 目の前には汗水流してようやく購入した愛車があるというのに、それを自分で走らせることができないとは。大好物を目の前にしてお預けを食った忠犬状態・・・これに勝る苦行はないだろう。ただ、Fは生真面目で自制心の強い人間だったので、ルールは破らなかった。

 そんな彼は、(その日まで)やむなく仲間に運転を委ね、本人はタンデムシートに甘んじる道を選んだ。そうまでして、やはり愛車で走りたかったのだ。

 Fがライダーとして自分を選んでくれたことは嬉しかったし、誇りにも思ったが、本音では気が重かった。何しろ、他人の大型バイクと当人の命を預けられていたわけで、これは大いなるプレッシャーでしかなかった。しかし、おかげで慎重なライディングが身についた。

 二ヶ月後、Fが無事に試験に合格し、晴れて愛車を駆る姿を見て複雑な気分になった。ほっとしたような寂しいような奇妙な感情だった。いや、正直に言ってしまおう。

乗り慣れたビッグバイクが自分のモノではないという現実を突きつけられ、見当違いの喪失感と羨望に翻弄されていただけだ。

 それでも、振り返って今さらながらに思う。無免許運転の誘惑に耐えたFもさることながら、仲間の律儀さをリスペクトして、ストレスを抱えながら二ヶ月間”運転手”に徹した自分もちょっぴり褒めてやりたい、と。