syouwanowasuremono’s blog

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中山千夏 「巷談の会」が熱かった頃】モノ・コト編㉔

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 “推し”なる言葉はすでに一般に認知されていて、有名な某文学賞のタイトルにも登場した。とはいえ○○B48とか△△坂とかには疎くて、名前と顔が全く一致しない。

 しかし、そんなオジサン世代にも昭和のある時期に“推し”のアイドルは存在した。山口百恵桜田淳子天地真理ピンクレディーキャンディーズ・・・etc (順不同)

 だが、ひねくれ者の筆者は周囲に公言することはなかったが、ある意外な人物のファンだった。女優、司会者、歌手、作家などマルチに活躍し、参議院議員も務めた中山千夏である。現在の立場(主に著述家として活動している)では敬称を略すのは失礼に当たるかもしれないが、本音は「千夏ちゃん」と呼びたいのを堪えている心情と相殺してもらいたい。

 実は『ひょっこりひょうたん島』の博士役当時からのファンである。彼女は子役として舞台に立っていたので芸歴は長く、名前は以前から知っていた。それがいつからかドラマや司会者としてテレビでの露出が増えるにつれ、さらに熱が高まった。

 劇中キャラクターの博士を彷彿させる聡明さと、自由で奔放な物言いが心地良かった。かつて「ウーマンリブ」という言葉が巷に溢れ、彼女もその急先鋒としてマスコミで取り上げられることもあったが、理念は現在で言う「ジェンダーレス」で、それを40年以上前に先取りしていたのである。テレビ・ラジオでは一定の放送コードの関係でかなり気を遣った発言を心がけていたようだが、講演会やシンポジウムでは放送禁止用語が飛び交っていた。

 上野・本牧亭で月例だった『巷談の会』には足繁く通った。彼女と他のゲストの多彩さもあって、毎回白熱した討論が繰り広げられた。本音と本気がぶつかり合う、まさに言葉の格闘技さながらのエキサイティングな時間だった。

 そうした時を重ねるうちに、いつのまにか「千夏イズム」にすっかり嵌まっていったのだ。結果、「風が吹けば桶屋が儲かる」理論(?)で、就職先も決めてしまった(勝手な思い込み、こじつけである)。さらに縁あって、彼女の著作の販売に微力ながら関わることにもなったのである。(その辺の詳細については、別の機会に語ろうと思う)

 ファンの宿命で、こちらがどんなに熱い思いを寄せていたとしても、基本的に一方通行だ。自身も、実際に言葉を交わしたのはサイン会の時だけである。でもそれだけで昂揚し、しばらくは何も手につかない有様だった。恥ずかしながら、ミーハーそのものだ。

 時代は押し並べて上昇機運だったが、気がつけば彼女はテレビ、ドラマの世界から退場していた。まだ人気の頂点にあったにも拘わらず、早々に見切りをつけたのは本人の信条によるものだという。その潔さ、揺るがない信念はさすがだと思った。しかし同時に、例えようのない喪失感も味わったのだ。

 以来、中山千夏という道標を失い、無情な時の流れの中で迷走を繰り返してきた。それでも、ふとした折に彼女の凜々しい表情や澄んだ歌声を思い出す。その度になぜか問いかけられているような気持ちになり、居住まいを正さずにはいられないのだ。

「夢は叶ったの? あの頃のひたむきな熱い想いは残ってるのかな? あなたの心に」