syouwanowasuremono’s blog

懐かしい旧車・モノ・コトにまつわる雑感

雨を見たんだ

〈昭和の忘れもの〉モノ・コト編㊲

【CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)】

 過日、記録映画『CREEDENCE CLEARWATER REVIVAL/TRAVELIN’ BAND』を観た。記録フィルムなので当たり前だが、スクリーンに映し出されていた4人のメンバー(ジョン・フォガティ、トム・フォガティ、ダグ・クリフォード、ステュ・クック)も背景も時代の空気そのままで、半世紀前の日々が蘇って涙が出そうになった。

 1972年10月のその日、一人のひねくれ者の高校生は朝から自室に籠っていた。

『CCR解散!』の報を耳にした瞬間、全身の力が抜けたような浮遊感に襲われ、気がつけば日が暮れるまで彼らの曲を大音量で流し続けていた。有りったけのLPとシングル盤を、次から次へとプレーヤーに乗せては針を落とす手順を繰り返した。まるで、その音が途切れたら自分の命が消えてしまうかのように。

 その2年前に解散した「ビートルズ」の偉業については語るまでもないが、その“絶対王者”に背を向けてCCRに傾倒したのは、単純に彼らの曲が自分の感性に合っていたからだ。そこに嘘はないが、ビートルズ至上主義を唱えていたのは洋楽好きだけでなく、ビジュアルを第一義と捉えている人間が少なからず存在することへの反発もあった。

 高校生の彼は、「主流・優勢といわれるモノには抵抗すべし」という何ら説得力のない信念に凝り固まっていた。もちろん、ただの天邪鬼でしかないことはわかっていた。しかし、そうやって抗い続けることしか彼にはできなかった。特筆すべき才能もなく、何処へ向かおうとしているのかさえわからず、今日を生きていく自信さえなかった彼には、否定形でしか外界と対峙する術がなかったのだ。 

 郷愁・回帰・夢想・自省―――CCRの曲を聴きながら、自分の中ではあらゆる思いが駆け巡っていた。過剰に反応する感性を制御できず、まして的確な言葉で他者に伝えることもできなかった愚か者は、拠り所としての楽曲に己の心情を託すしかなかった。

 CCRを「サザンロック」等の名でジャンル分けする向きもあるようだが、個人的にはどうでもいいと思っている。何より、J・フォガティのブルージーでパワフルな歌声は唯一無二である。彼自身は多彩な楽器を操ることができたが、自身の声こそが誰にも演奏できない“楽器”であり、シンプルな曲構成に複層的な魅力を与えていると言えるだろう。彼らの確かな演奏技術とジョンのヴォーカルの複合体、それがCCRサウンドである。

 代表曲の「雨を見たかい」は特に日本で大ヒットしたが、その歌詞については様々な解釈・隠喩がまことしやかに流布されていた。有名な話では、「晴れた日に降る雨」がベトナム戦争時に使用されたナパーム弾を象徴した“反戦”であるとの理由で、アメリカ国内で放送禁止になったこともあったという。

 J・フォガティ自身は反戦歌説を否定しているが、元々そうした詮索自体が無意味なことではなかったか。要は、聴衆は彼らの演奏を、ジョンの歌声を頭を空っぽにして全身で受け止めればいいのだ。理屈は要らない。

 素直にそう思えたのに・・・あらゆる事物に終わりがあるように、音楽性に優れたバンドも例外ではなかった。良くも悪くもJ・フォガティのワンマンバンドであったCCRは、ひとりの天才が率いるグループの常で、スタートした時点から崩壊へと向かう運命だった。

 前年にトム・フォガティが脱退し、残ったメンバー3人による日本公演(1972年2月・武道館)が行なわれた時、すでに内部崩壊はギリギリまで進行していた。一部では暗黙の了解だったかもしれないが、誰もがその話題に触れることを避けていた。

 しかし、運命の時はやってきた。CCRの実質的な活動は僅か4年ほどだったが、最終的に彼らは世界的なビッグバンドに上り詰めた。メンバーにとって、あるいはファンにとってそれまでの期間が長かったのか短かったのか、一概に語ることはできない。

 いずれにせよ彼らが解散してしまったという現実は、明日からの希望を失ったひねくれ者にとって十分過ぎる悲劇だった。一方で、J・フォガティが「雨を見たかい」の歌詞に込めた“真情”を読み解いていたファンは、己の理知を悔やみつつ呑み込むしかなかったのかもしれない。晴れた日の雨・・・すなわち、黄金期の直中だったバンドの終焉が近いことを予告していたのだと。

 ♬ 晴れた日にも雨は降るんだ

   君はそんな雨を見たかい? 

 あの頃そう問われ、未熟な自身に照らして思うことはあった。

 古いメモが残っていた。半世紀前のものだ。気恥ずかしいが、アンサーソング風の独白を敢えてそのまま記しておくことにする。

  ありふれた日々だけど

  挫折や悲しみだってあったよ

  それよりも突然の雨は最悪さ

  ずぶ濡れになるしかないから 

  晴れた空から降り注ぐ      

  そんな雨を僕は見たんだ