syouwanowasuremono’s blog

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昭和の忘れもの

「どっち派?」

【整髪料 MG5(資生堂)・バイタリス(ライオン)】モノ・コト編⑨

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 中学でサッカー部に入っていたことは以前書いた。そこでは半世紀前の運動部ならではの、現在では到底通用しないと思われる封建的な決まり事がいくつもあった。中でも最大の不文律が、運動部に入る以上、髪は坊主かスポーツ刈りが当たり前というものだ。

 新入部員は異議も唱えず素直に従い、進級しても辛い練習の日々が続く。ところが、三年の二学期になると状況が一変する。三年生は実質的に部活を引退して高校受験の準備に入るのだが、この時点でようやく顧問の先生から髪型の自由が認められる。

 待ちかねた先輩たちは、二年間の遅れを取り戻すかのように髪を伸ばし始める。ちょうど思春期の盛りである。女子にも興味が湧き、お洒落にも目覚めるころだ。

 そんな先輩の中に、早くから女子の憧れとなっていた“スター”が存在した。試合ともなればグラウンドの周囲は女子生徒で溢れ、お目当ての選手に熱い声援が送られる。勉学でもスポーツでも、秀でた人間は必然的に注目を浴びるものだ。髪型とは関係なく。

 スターは二人いた。二人ともFW(フォワード)だったが、お互いにプレースタイルが異なり、ひとりはフィジカルコンタクトをものともせずゴール前に切り込むタイプで、一方は華麗なステップでディフェンスを躱すスタイルだった。しかも、わかりやすいほど外見がプレースタイルと合致していたので、女子生徒のファンも完全に二分されていた。ワイルドorスタイリッシュ?

 実は後輩の間でも、目指すプレースタイルが二派に分かれていた。技術も無いのに、○○先輩のフェイントがどうとか、パスの精度がどうのと、皆が解説者気取りだった。それがいつしか最近のヘアスタイルの話になり、先輩たちが使用している整髪料にまで及んだ。すると、それぞれ「MG5」と「バイタリス」だというので、またまたここでも部員たちが二派に分かれる結果となった。

 それなりに真剣に部活に取り組んでいた自分は、そんなチームメイトを少しだけ冷めた目で見ていた。どちらの派になろうと、髪を伸ばせるのは一年後なのだ。何ともお気楽な話だ。この時点で想像できるように、そんな雑念を抱いてサッカーボールを追っているチームが大会を勝ち上がれるはずもなかった。

 結果として「サブ」にしかなれなかった身に他人のことをあれこれ言う資格はないが、素直にこれだけは言える気がする。懸命にボールを追っていた無垢な自分がいとおしい、と。

 ではあの三年間をもう一度やり直したいかと問われれば、返答に窮する。あの厳しい練習の日々は二度とご免だ。ご免だが・・・鏡を見る度に頭髪がめっきり寂しくなった現実を突きつけられると、つい呪文のように呟いてしまう。

「ああ、整髪料の選択で悩んでいたあの頃に戻りたい・・・」

 

                  (*両商品は現在も販売されている)