syouwanowasuremono’s blog

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「モンスターたちの幻影」

【WRC グループBカー】クルマ番外編

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 世界的なモータースポーツのビッグイベントとしてF1(フォーミュラー・ワン)、WEC(世界耐久選手権)、WRC(世界ラリー選手権)がある。それぞれクルマ好きにはたまらない魅力があり、80年代は時代背景もあって国内での盛り上がりは最高潮だった。

 個人的には特にWRCに熱くなった。きっかけは1985年に本格化したグループBカーの激闘だった。「グループB」というのはWRCの最高峰、即ちグループBカーとは究極の高性能マシン・スーパーウエポン(戦闘車両)である。規定は82年から導入されたが、主力メーカーが本気でマシン開発を進め、相次いで実戦投入したのがこの年だった。

 サーキットを周回するF1やWECとは違い、公道(クローズされてはいたが)の直線を時速200キロで疾駆し、ブラインドコーナーをドリフトしながら100キロ以上の速度で駆け抜けるラリーカーの姿は迫力満点だった。何より、中身はまったくの別物と理解しながらも、外見は市販車に似せていたために親近感が湧いた。

 そう言いながら、現実的にはタイトル戦のステージに日本は含まれていなかったので、実車を間近で見る機会はなかった。一般のファンはスポーツニュースの片隅やクルマ番組の特集、あるいは深夜の特番で映像を観るしかなかった。ネットはもちろんBS放送も始まっておらず、有料放送という概念すらない時代である。他に情報源といえば自動車雑誌だったが、気に入った数ページの写真や記事のためにやむなく高い専門誌を購入したものだ。

 嗜好に走ると、どうしても関連グッズ等を集めたくなる。クルマの場合は、実物は絶対手に入らないにしてもプラモデル・ミニカーといった手軽に鑑賞できるものが存在する(価格はピンキリだが)。勢い、ついつい買い込む羽目になるのだ。

 そんな中で、苦労の末に1巻のVHSテープを見つけた。『1985ワールド・ラリー チャンピオンシップ 総集編』(TBS映画社)である。歓喜して購入を即決したのだが、その値段に驚いた。何と16000円! 現在の相場では50000円程になるだろう。おかげでふた月ほどは昼食抜きの生活を余儀なくされたのだ。

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 ところが翌1986年、グループBの熱狂も自身のそれも唐突に終焉を迎えた。マシンの過剰なパワーアップによって観客を巻き込む惨事やドライバーの死亡事故が続発し、安全性を危惧したFIA(国際自動車連盟)がグループBの廃止を決定したのだ。

 大手メーカーが莫大な費用を投入し、そのブランド名を誇示するためにただただ速く走り、勝利することを義務付けられた悲劇のモンスターマシンたち。様々な立場の人間たちの思惑によって生み出された彼らは、結局そうした人間たちのエゴによって葬られることになったのだ。僅か5年、実質的にはたった2年間の眩い光芒だった・・・。

 モンスターたちの咆哮は乾燥した、あるいは氷雪の大地を今も駆け巡っている―――そう願うのはオールドファンの安易なロマンだろうか。少なくとも、生を受けながら活躍の場を失ったマシンたちはガレージの奥で眠りに就きながらも、内包する強大なパワーを解放できる日が来ると信じ、ファンと同様な幻影を追い続けていることだろう。