syouwanowasuremono’s blog

懐かしい旧車・モノ・コトにまつわる雑感

先見の”迷”

〈昭和の忘れもの〉モノ・コト編㉜

東芝 A-800HFD(DIGITAL-Hi-Fi VHS)】

 メカ好きで新しモノ好きである。機械モノで新製品が出るとつい気になって、量販店(主として家電)へ足が向いてしまう。しかも意志が弱いときてるので過去にどれだけ無駄遣いを嘆き、悔し涙に暮れたことか。

 中でも大失敗といえるのがこの「デジタルVHS」なる代物だった。何しろ1ヶ月分の給料よりも高額で、すでにビデオレコーダーは持っていたのにどうして買う気になったのか今では定かではない。まあ、衝動買いとは得てしてそういうものだが。

 カタログには「プロ仕様」「デジタル再生」「Hi-Fi」といった文字が躍り、まるで映像クリエーターになれるかのような惹句が並んでいた。だからといってそうした分野に憧れがあったわけではないのに、「デジタル技術の集大成」という謳い文句にコロリとやられてしまったのだ。再生ヘッドに物理的にテープを接触させる基本構造は変わらず、何処がどうデジタル技術なのかも理解できないまま。

 それでも、専らテレビでのスポーツ観戦にスイッチしていたかつてのサッカー少年には、分割画面表示とかデジタルスロー再生(正逆可)といった機能は実に魅力的だった。一例がサッカーのゴールシーン。今でこそスポーツ中継でのスロー再生やストップモーションなど普通のことだが、自分で自由にそうした操作ができるというのは当時は画期的だったのだ。それもカクカクした分解写真的なものではなく、滑らかな動画で! スポーツファンなら誰しも想像しただけでワクワクしたはずだ。

 ところが実際に使ってみてわかったのだが、謳い文句にあるようなマニアックな技術や操作を駆使する場面は限定的で、しかも高画質用(=高額な)テープを使用しなければならなかった。なおかつ画質にムラがあり、微妙なトラッキング調整が必要だった。そもそも放送自体(テレビ本体も)の解像度が高くなかったので、録画側がいくら高性能でもあまり意味はなかったのだ。例えれば、高速道路を飛ばす目的でスポーツカーを無理して購入したものの、日常的には軽自動車の方が燃費も使い勝手も優れていた―――そんな徒労感にも似た後悔の念は容易には消せなかった。少しばかり先取り感を誇示したいと焦った、浅はかな見栄の結果である。

 自分には先見性などないくせに先走り、迷走ばかりしていたというわけだ。さすがに、ある程度の年齢になると先ずは大勢を見極め、一呼吸置いてから自分なりのジャッジを下すことを心がけるようになった。とはいえこうした大局的な姿勢は、好奇心は失っていないけれど年相応の慎重さも必要なのだ、という苦しい言い訳のためだったかもしれない。

 それでも、時として“後出しジャンケン”なのに敢えて負けを選ぶという偏屈な悪癖は封印しきれなかった。その度に周囲からは呆れ顔で揶揄されたが、迂回や曲折した思考回路も場合によっては必要ではないだろうか。

 迷走はゴールが見えないからこそ面白い・・・のかも?